YouNet くすり博物館のちょこっと歳時記 (3)・・・(250615掲載)

 〜虫がきらう植物〜
くすり博物館の薬草園は花真っ盛りの季節になりました。今回は虫が嫌う植物を紹介しましょう。5月中旬から7月中旬にかけてシロバナムシヨケギクが白い花をさかせます。この植物、かつては蚊取り線香の主原料として使われた植物です。花にピレトリンという殺虫成分が含まれています。「ピレスロイド系殺虫剤」という文字を目にしたことのある方もみえるかもしれません。その元となっている成分です。もともと、乾燥させたシロバナムシヨケギクの粉末は蚤とり粉として使われてきました。これに目をつけ、お線香にしたのが蚊取り線香のはじまりといわれています。世界で最初に蚊取り線香ができたのは明治23年のことです。くすり博物館には昔の蚊取り線香が保存されています。当時の蚊取り線香は細くてまっすぐなお線香でした。1時間ほどで燃え尽きてしまうものでしたが、明治35年には現在のような渦巻き型で長時間燃焼可能なものが市販されました。戦後はより強力な化学合成品にとって替わられ、現在シロバナムシヨケギクは香り付けにわずかに使われる程度になってしまいました。そのほかにも虫が嫌う植物としてフィーバーフュー(写真右)やミブヨモギ(写真右下)が栽培されています。フィーバーフューはナツシロギクとも呼ばれ、ヨーロッパでは古くから熱を下げ、頭痛を緩和するハーブ(*)として知られています。乾燥させた葉はたんすの虫除けなどに利用されました。ミブヨモギは秋に目立たない花を咲かせます。全草に含まれるサントニンという成分は虫下しの効果があり、回虫を駆除する特効薬として家庭から軍隊まで広く利用されました。シロバナムシヨケギク、フィーバーフュー、ミブヨモギ、どれもキクの仲間です。キクそのものはキッカ(菊花)の生薬名で解熱や消炎を目的とした漢方処方に使われるのですが、全般にキクの仲間は虫が嫌う成分を含んでいるのかもしれません。お刺身の飾りにキクの花が添えられていることがありますが、目を楽しませるためだけでなく寄生虫などを防ぐための昔ながらの生活の知恵と言えそうです。
*妊娠中や血栓溶解剤を処方されている方は使用しないで下さい。
       (くすり博物館 伊澤 大)


戻る