YouNet 尾北医師会シリーズ(10)・・・(200227載)

高齢者の転倒予防
〜寝たきりにならないために〜
尾北医師会 河村 英徳 
 
最近、介護などの分野で盛んに『健康寿命』と言われていますが、これは単に長生きするのみならず、元気で活動的に暮らすことを表します。高齢化社会に向け、「寝たきり」の予防は本人のためにも、家族や国家のためにも重要な課題となっていますが、寝たきりの原因は「脳血管疾患」に次いで「骨粗しょう症にともなう転倒による骨折」が2位。「寝たきり」で家族や社会の介護を受けることとなる前に、「転倒予防」について考えてみましょう。
転倒の原因は…?
転倒は、体力の衰えが1つの原因となります。高齢になり筋力が落ちてくることも1つであり、疾病によるところもあるでしょう。高血圧のコントロールが悪いと、脳血管疾患による脳梗塞や脳出血で半身麻痺となり運動能力の低下を生じます。また、糖尿病による抹消神経障害で足底の感覚が鈍くなることも転倒の原因となります。高脂血症や動脈硬化も転倒に関与し、最近の研究結果として「太り気味で健康度が低く、動脈硬化の傾向のある人」は転倒リスクが高いことが分かっています。さらに、白内障や緑内障など、目が悪くなることもリスクの1つ。自己の疾病把握や、受診による日ごろからの薬物管理が大切になります。以前はホルモンの関係により女性に多かった骨粗しょう症も、男性の高齢化に伴い男女共に増加。腰痛の原因の1つとしか認識がなかった骨粗しょう症も、最近では大腿骨頚部骨折の原因として注目を浴び、発生頻度は1987年に約53,200件、2002年に約117,900件と、15年間で約2.2倍に増えています。「転倒→骨折→寝たきり」にならないために骨折しにくい骨をつくることが大切であり、骨折の原因となる「転倒」について知っておくことが重要です。
転倒についての知識
それでは、どんなところで転んでいるでしょうか?約3割が一般道路や歩道、2割が自宅内。階段は屋内・屋外合わせて2割で、家の周りは1割。履物は「運動ぐつ27%」「サンダル26%」「革靴22%」で、屋外で転んだ人の半数以上が足に適していないサイズや形が転倒理由のようです。転んだ方向として約6割が「前」、約3割が「横」、意外にも「後ろ」に転ぶ人が一番少数。前に転ぶと「ひざと手首」、横は「股関節、足」、後ろは「腰椎、足首」の骨折が多く、高齢になると年齢と共に骨折率は高くなり、転んだ人のおよそ2人に1人が骨折。たった1回の転倒で寝たきりになったり、手足が不自由になったりしていることが明らかになっています。また、転倒場所は悪路や段差だけでなく、高齢者の場合、ごく普通の道路で普通の靴を履いて、特に急いだわけでもないのに転んでいるという事実があります。
転倒予防として…
転倒予防対策として運動がありますが、具体的に何をすればよいのでしょうか。「運動」といっても特別なトレーニングやハードなスポーツをする必要はなく、日常生活の中で「歩く」「のぼる」などを意識的に行なえば良いのです。無理なくいつもより少し多めに歩いたり、エレベーターを使わず階段で上ったり。また、起床時や就寝前に背伸びや足腰を伸ばしてストレッチを行い、関節を柔らげることも転倒予防に効果があります。日ごろから転倒に注意を払い、基礎体力づくりを習慣とし、疾病に対してはきちんと病院で受診して治療を行い、より長い「健康寿命」を保つことが重要です。

社団法人「尾北医師会」(大口町下小口6丁目)
犬山、江南、大口、扶桑各市町の地域医療を担う医師会員(現在249人)で構成。尾北看護専門学校、尾張北部地域産業保健センター、地域ケア協力センターを設置、人材育成や保健・医療・福祉サービスの地域ケアシステム化を図る。http://www.bihoku.aichi.med.or.jp/

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