YouNet 尾北医師会シリーズ(4)・・・(190822掲載)

「鼻出血とその対処法」
尾北医師会 小林 武
 
誰もが日常でしばしば経験する「鼻出血」。鼻出血それ自体は症状であって、単独の疾患ではありません。ですから、血が止まれば終わりではなく、鼻出血の原因となる疾患の検索と治療が必要となります。
鼻出血の部位
鼻出血は出血する部位によって、前鼻出血、上鼻出血、後鼻出血に分けられます。
●前鼻出血は鼻腔の前部からの出血で鼻出血の70〜80%を占め、キーゼルバッハ部位と呼ぶ左右の鼻腔を中央で隔てる鼻中隔の前部からの出血が一番多く見られます。キーゼルバッハ部位は鼻へ指を入れると触れるところにあり、粘膜が薄く血管が密に集合し、傷ついて出血しやすい部位。子どもの鼻出血の約90%がこのキーゼルバッハ部位からの出血です。 
●鼻腔の上部からの出血を上鼻出血、後部からの出血を後鼻出血と言い、子どもでは10%以下、中・高齢者では30%ぐらい。出血した血液がのどから口の方へ流れやすいのが特徴で、止血しにくく出血が長引くことが多くあります。
鼻出血の原因疾患
鼻出血は原因疾患のない突発性鼻出血と、原因疾患のある症候性鼻出血に分けられます。
●原因となる疾患のない突発性鼻出血は、洗顔で前かがみになったときや排便時のいきみ、気温や気圧の変動、運動時、感情の変動(特に怒り)、疲労、睡眠不足、女性の生理との関連などで誘発され、詳細に検索すると、何らかの原因疾患が判明することも。
●症候性鼻出血の原因疾患には、外傷、局所疾患、全身疾患があります。外傷は、鼻部に外力が加わり、鼻粘膜などを傷つけて出血。身近な外力としては、転ぶ、ぶつかる、ぶたれる等、強い外力は交通事故等。中〜強い外力では、骨折や他の部位の損傷を合併することもあります。
●局所疾患としては、鼻内異物、鼻周囲湿疹、鼻炎、副鼻腔炎(チクノウ)、鼻および周辺の悪性腫瘍(癌や肉腫)などがあります。鼻内異物は鼻炎や副鼻腔炎がある幼少児が、豆類、プラスチック、ティッシュなどを鼻腔に入れることがあります。
●全身疾患としては、白血病など血液疾患、高血圧など循環器疾患、肝疾患、腎疾患、甲状腺機能亢進症、糖尿病など出血傾向をきたす疾患があります。最近では脳梗塞、心筋梗塞の予防薬(血を固まりにくくする)の内服が増え、これら出血傾向のある疾患での鼻出血は、自然止血が容易でなく早期の耳鼻咽喉科での止血処置が必要となります。
鼻出血の対処法
(1) 安静にする。
びっくりして騒いだり、慌てたりすると血圧が上がり止血しにくくなる。本人も周囲の人も冷静に行動し、何よりも本人の気持ちを落ち着かせることが必要。
(2) いすに楽に座って少し前かがみになり、ゆっくり口呼吸、洗面器を持って鼻血を受ける。
横になったり、仰向けに寝たりすると血液がのどにまわり、血液を飲み込んだりむせたりする。流れ出る血液をティッシュなどでこまめにふき取ることも、出血部位を刺激して止血の妨げとなる。この姿勢でも血液がのどに流れるときは、上・後鼻出血が疑われます。
(3) 血液は飲み込まない。
吐き気や嘔吐、気分を悪くする原因となるので、血液を飲み込むのは厳禁。
※(1)(2)(3)を5分間続け、なお鼻血が洗面器に落ちるときは、出血している側の鼻翼部を指(親指か人差し指)で数分間圧迫。鼻翼部を指で圧迫すると、鼻中隔前部のキーゼルバッハ部位を圧迫しり、止血します。子どもの場合は親の指で圧迫。5分間圧迫後、指を離して再び出血するときはもう一度圧迫を繰り返す。これで止血せず血液がのどの流れるときは上・後鼻出血が疑われ、耳鼻咽喉科の受診が必要となります。鼻出血が止まった後、一週間は再出血しやすいので、鼻をいじったり鼻をかんだり、風呂、プール、運動は控えましょう。

社団法人「尾北医師会」(大口町下小口6丁目)
犬山、江南、大口、扶桑各市町の地域医療を担う医師会員(現在249人)で構成。尾北看護専門学校、尾張北部地域産業保健センター、地域ケア協力センターを設置、人材育成や保健・医療・福祉サービスの地域ケアシステム化を図る。http://www.bihoku.aichi.med.or.jp/index.html

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