YouNet 尾北医師会シリーズ(11)・・・(200326載)

在宅診療と往診
〜在宅栄養管理「(胃ろう)」について〜
尾北医師会 中村 司朗 
 
在宅診療や往診は、さまざまな理由で病院の外来を受診することが困難な皆様に提供する医療です。往診は急な発熱や目まい、嘔吐など突然やってきた疾患に対処する診療です。在宅診療は予定を決め定期的に医師が自宅に伺う診療で、隔週または週1回程度訪問、健康のチェック、投薬指示などを行ないます。午前の外来が終わってから夕診までの間にお邪魔します。日本は過去に経験のない超高齢化社会になりつつあり、年齢と共に有病率は増加、さまざまな理由で寝たきりになる方が増えています。病院や看護施設での対応には限界があり、在宅で生活する場合が多くなります。他のサービス事業:訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問入浴、ケアマネージャーとの連絡や救急時の受け入れ先病院との連帯も在宅管理医師の仕事です。
胃ろうで長期栄養管理
最近、訪問診療でよく経験する胃ろう。以前は食事が十分取れない場合には、腕や首の中心静脈から栄養(点滴)や経鼻チューブを使った栄養(鼻管)が行なわれていました。現在では胃にお腹から直接管を通して栄養を注入する「胃ろう栄養」が主流。胃カメラを使って胃ろうカテーテルを造設。術後管理やご家族に管理方法、栄養の入れ方を練習していただくため、1〜2週間入院が必要です。一旦使用できるようになれば半年に1回の外来通院交換ですみ、普段は特に消毒も不要、そのまま入浴も可能です。私自身は、10年前に初めて胃ろう栄養に遭遇いたしました。この方は、しばしば食事の時にむせて肺炎(誤嚥性肺炎)になりました。入院先から「胃ろう」を勧められたとき「胃に穴を開けてまで延命しなければならないのか」と思ったそうですが、胃ろうを開始してから誤嚥による突然の肺炎等の入院は起きなくなりました。安定した栄養で顔につやが戻り、体重が増えて元気に回復されました。胃ろう管理経験が進んだころ、あるご家族から「お父さんはお酒の好きな人。胃ろうになってかわいそう。一緒に晩酌していた私(妻)も飲めなくなった」と語られました。私は「胃ろうからお酒を入れてあげれば良いじゃない」と持ちかけました。翌週の訪問時に「冷酒を入れたら、お父さんは『燗にしてくれ』だって」と、うれしそうに久しぶりの晩酌の話をされました。このように安定した技術で、長期栄養管理ができるようになりました。在宅の患者さんの中には、意識や意志がはっきりしない方も多くみえ、この方々が心から胃ろう栄養を望んでいらっしゃるかどうかは疑問です。重病を克服されたサイエンスライター柳澤桂子さんの短歌「けものなら死ぬであろうに人ゆえに医学によりて生きて苦しむ」を心に留めながら「けもの以上の何か」があると信じ、今日も訪問、往診に出掛けています。

社団法人「尾北医師会」(大口町下小口6丁目)
犬山、江南、大口、扶桑各市町の地域医療を担う医師会員(現在249人)で構成。尾北看護専門学校、尾張北部地域産業保健センター、地域ケア協力センターを設置、人材育成や保健・医療・福祉サービスの地域ケアシステム化を図る。http://www.bihoku.aichi.med.or.jp/

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